「ありがとうって言われたい?」
「そうそう」
部活が終わりすっかり空が暗い中。遊馬が俺を誘って連れて来たのは、珍しく遊馬の家のカフェではなく反対方向の喫茶店。
「遊星さんさ、俺が何してもすまないってしか言ってくんねーんだよな。どうせならありがとうって言われたい」
これまた珍しくしょんぼりとしながら、オレンジジュースの入ったグラスに添えられたストローをがじがじと噛みながら遊馬はぼやいた。
そういえば遊馬と遊星さんは俺と十代さんより早くに付き合いだしたんだっけ。事情が事情だったみたいだからあまり深くは聞いていないけど。
「昔から感謝より謝罪が先に出る人なんじゃないの?」
「でもさ、ブルーノ兄ちゃんにはよくありがとうって言ってたの聞いてるんだよな。」
やっぱりブルーノ兄ちゃんより頼りないからかな。
最後の方は尻すぼみになりながら言われたその言葉は、まるでテーブルにごとりと音を立てて落ちていくように重く響く。
この二人が一緒に暮らすようになった事情はかじる程度に聞いてはいるけど、たぶん遊馬が頼りないわけではないと俺は思った。
遊星さんは人一倍真面目な人だし、たぶん亡くなったブルーノさんの件でも遊馬に頭は上がらない。というか本人が上げたくはないんだと思う。
その上で数個も歳が下の遊馬と付き合うという罪悪感が大きいから、たぶんその罪悪感が感謝より謝罪を先に放つように仕向けてしまっているんだろう。
……という話をしても、たぶん遊馬はよくわかんないんだろうな。俺も遊馬よりひとつ上なだけなんだけどさ。
「それ、本人に直接言った方が解決すると思う」
「あー、やっぱり?シャークにもそう言われたんだよなー」
あ、うん。やっぱり神代さんにも相談してたんだ。ごめん神代さん、遊馬の惚気に付き合ってくれてありがとう。
俺が高校生になってからは演劇部が忙しくて、こうしてお互い部活が早く終わったときに遊馬が俺を誘ってこない限りはこういう話に付き合うことは少なくなっている。
その分を神代さんが補ってくれていると思うと、なんだか申し訳ない気分だ。
「遊馬も今年受験なんだし、もやもやするなら夏休み前に片付けたほうがいいよ」
「んー、そうする。じゃあ家に帰ってさっそく聞いてみる!遊矢、ありがとな!」
「どういたしまして。今回は俺が奢るから、遊馬は早く帰りなよ」
ありがとう、と俺に告げて遊馬はいそいそと鞄を持って店から出ていく。
俺もひらひらと手を振りながら見送った。
「相談、終わったか?」
「やっぱりあの席に居たんですか、十代さん」
遊馬と店内に入ってからしばらくしてから見知った顔が斜め後ろのボックス席に座ったのを実は知っていた俺は、さして驚くこともなく声をかけてきた人物に対応する。
いつもなら声をかけてきたんだろうけど、なんとなく落ち込んだ遊馬のことを察して後ろの方に座ったんだろう。
いつもこれぐらい真面目ならいいのにな。
「しっかし遊星も真面目だよなー。いつか禿げるぞ、あいつ」
「十代さんにもあれぐらいの真面目さが欲しいですけどね、俺としては」
「……お前、言うようになったな」
可愛いげなくなった、と文句を言いつつも俺が払おうとしていた二人分の伝票と十代さん自身の伝票を持っていって、会計を済ませるあたり十代さんは優しい。
けど、真面目では絶対ないな。手は早いし、ちょっと扱い酷いときあるし。
でも、まあ。
「惚れた方が負けなんだよなー。頑張れ遊馬」
遊馬の悩みが解決するにしろ、しないにしろ。
結局はそういうことなんだ。
なんだかんだ言っても好きであるうちは離れられない。
付き合うって、たぶんそんなものである。
Fin.
フォロワーさんのつぶやき見て書きたくなったゆゆま。でも遊星さんは出ません。ごめんなさい。そして趣味に走って十ゆやつっこんじゃった。